対空有効射程への小さな疑問


各種兵器の性能を並べてウットリ眺めようということは、実に単純にヲタクゴコロ 失礼、「純粋なる知的好奇心」をくすぐるものだ。

ある時、様々な艦載対空火器の「有効射程」にまつわる議論にふと、いくらかの違和感を、形にはできない程度の疑問のような何かを感じた。
それ以来何やら、様々の関連事項(対空戦闘全般)が数珠つなぎ的に、あるいは泥縄的に生じ、これまた後生大事に長いこと温め続けてきたのである。

何か公開事項を基にして、物事を平準化し、あるいは相対化し、それを足掛かりに長年の疑問解決の一助となりはしまいか?

あるとき検索で遭遇した、超音速航空機の研究論文を読むと、これがなかなか面白い。(事故により原典明示不可)
特に遷音速領域における空力現象が、自機に及ぼす破壊挙動などの部分に、大変に興味を惹かれた。

そういえば、防衛技術選書にも、砲弾存速と弾道安定性に関連する記述があったか?

ここに至りようやくイメージが形を成し始めた。

ひとたび砲身を離れた砲弾の行く先はもはや、大気やら引力やら・・・いうなれば神の手に委ねられるのみではないのか?
砲によって与えられた初速や安定性を上限として、そこからは砲弾の飛翔速度に依存して安定性を損じてゆくだけではないのか?

超音速においては、砲弾が大気を切り裂いて飛翔するイメージで、過酷ながらもそれなりに安定した飛翔が得られるのではないか?
亜音速においては、砲弾が大気を搔き分けて飛翔するイメージで、周囲環境に押し流されつつも、それなりに安定した飛翔を続けるのではないか?

しかしその中間。
音速を失う前後の遷音速領域においては、安定と不安定、超音速と亜音速が不期不同に混在し、砲弾の周囲環境そのものが悪化するのではないか?
砲弾先端が超音速環境下にあっても、しかし砲弾後端面に回り込む乱流が、超音速と亜音速の熾烈な殴り合いを演じてはいないだろうか?
それでなくても砲弾後端面は、砲弾飛翔に対し常に負の抵抗を生じ続けている。
イメージならば、砲弾が環境に飲み込まれ溺れている様な。

よしここはひとつ、モノの試しだ。

砲弾存速に依存して、砲弾飛翔の安定性、弾着精度の時空間的正確性を定義できると仮定、いや…

決めつける!ことに、してみよう。

そこでこれより当サイトにおいては、高角砲弾の命中能力を「砲弾直径」「砲弾重量」「飛翔速度」によって決めつけることとする。

※なお、ここでいう「命中能力」とは「射撃指揮装置によって指示された時間空間に精確に命中(弾着)する能力」の意味である。
※間違っても「命中」と「撃墜」をイコールで結ぶような、短絡的な解釈ではないことに注意していただきたい。

そのため以下のように、砲弾存速と砲弾飛翔精度の関係を定義した。
【1】超音速領域 (仮称・必中を期する射程)
~毎秒510m超(マッハ1.5超)を、砲弾飛翔環境が十分に安定している超音速域とする~

【2】遷音速領域(仮称・対空有効射程)
~毎秒510mから442m超(マッハ1.5~1.3超)を、砲弾飛翔環境の安定が徐々に損なわれてゆく高遷音速領域とする~

【3】不安定領域(仮称・音速限界)
~毎秒442mから374m(マッハ1.3~1.1)を、砲弾飛翔環境が全く安定を失う遷音速領域とする~
~また毎秒374m未満付近を「音速の壁」と見なし、これを「音速限界」とする~

【4】亜音速領域
~マッハ0.8未満の亜音速において砲弾飛翔環境は再び安定するが、一旦は弾道の安定を損なった後なので「安定精度を期待できない領域」とす る~

これらをビシッと決めつけた上で、数理科学的な雑学のページ様の弾道 計算プログラムを借用し、日本海軍12.7cm高角砲を題材に試算を行った。

以下に退屈な計算条件などを列挙。
・音速=毎秒340mとし、砲口初速からマッハ1.1までの計算結果を採用する。高度補正はしない。
・砲口初速は公称値より。新品値・平均値とある場合は平均値にて。
・計算結果を仰角80度までに加工する。これは作図上の推測。
・当サイトの図表類は、特に注記のない限りすべて瑞鶴丸三郎制作のオリジナルであり、無断での転用、転載、複製、変造などを固くお断りする。
・射程距離に関する、いわゆるカタログデーターは基本的に無視。
・主な参考Web等:NavWeapsHyperWerWarbirds、 もりつちの徒然なるままに(ブログ)、サムライ乾氏のWeb活動痕 跡・・・他
・主な参考資料等:「高角砲と防空艦」遠藤昭 (著)、世界の艦船、「武器と爆薬」小林源文(著)・・・他
・航空機や艦艇のイラストは、アイコン工房 2009様より頂戴いたしました。
・以上、多くの方々に感謝いたします。



12.7cm高角砲

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