九四式高射装置

昭和9年より開発を開始し、昭和12年5月に初号機完成。マル3計画艦(大和型など)以降の艦にひろく搭載された。

測距儀と方位盤を一体としてスリムな塔型筐体に収容し、射撃盤は艦内に分離配置。
また、照準眼鏡と測距儀が確実に同一目標を捕捉できるようにされた。
九一式高射装置に対して、諸機器の操縦性、運用性が格段に向上した。
これらは愛知時計による強力通信機(改良型セルシン)の開発が大きく作用している。

生産台数は、日本光学80台、光海軍工廠で約10台の、合計90台程度とされる。

光学測距儀は、遊標立体視式の九四式4.5m測距儀。国産初とされる実用ステレオ測距儀だ。
武式に対し視野を広く明るくとれるのは、ステレオ式の特徴の一つである。
左側視野内に「追尾中」「発射」を示すランプを仕込んでいる。

ツァイス式由来の高度な光学設計は、当時の日本光學の硝子加工能力を超えており、その量産は難儀したと聞く。
難儀な多面体プリズムは、製作品の中から「良品を選んで使う」というくらいの、いわば増加試作に近い状態から始まったようだ。
ただし、この10年ほども前ならば「ただの模倣だけでも困難」というべき代物であり、技術水準の向上がうかがえる製品でもある。

「平面は飽くまでも平面。角度は分秒に至るまで飽くまでも角度。稜線は飽くまでも稜線」

文字にするのはまあ簡単なのだが、しかし実物を実際に加工するのは、飽くまでも難儀なのである。
硝子材種とか、角度とか・・・もうタイヘンなのである。

九四式射撃盤は九一式射撃盤と同様、歯車やカム、ローラー積分器などを整然と並べた電動機械式計算機。
ただし主な材質はどっしりした銅合金などから、軽量丈夫なアルミ合金などに変更されている。
さらに強力通信機による応答性、運用性などの向上はすでに述べたとおりだ。
距離基準の線形計算により見越しを求める。もちろん水平飛行ではない目標への対処が可能だ。

動力伝達のみならず、乗算や除算を瞬時にこなす優秀な計算機たる歯車。
これが高射装置のハナシとなると「歯車」と言えば「ガタガタ」と返される。

一見すると単純に見える問題だ。だがその根は深い。
あの絶妙な曲線を含む歯形を正確迅速に削り立てるのは、結構な技術背景が必要だ。
ちなみに米Ford Instrument社でも、Mark1 Computerの歯車について海軍当局からガタガタ言われている。

必須となる工作機械、歯切盤や歯車研削盤はこの当時、欧米からの輸入品が主役。
国産では残念ながら模倣品が精々であったと聞く。
自主国産の試みは皆無ではなかったようだが、程度の良いものは実用普及には至らなかったようだ。


評価については「当たらない」「測距儀だからダメ」など、否定的、断定的な声ばかりが大きく聞こえてくる。
その一方で使用者からは「入力と計算に時間が掛かり間に合わない」「使わない射撃は弾の無駄」であったとも。

要目値では平均20秒の順調な追尾、10~20秒の計算とある。
一般論的には捕捉から発砲まで、30秒程度となるようだ。
なお「目標捕捉から4秒で発砲し云々」という手記は、管理人も承知している。

この高射装置には米軍も興味を示し、戦後に詳細な調査報告書を残している。
「Type94 computerの計算モデルでは、遠距離での誤差が大きくなるかもしれない」
くらいのことで締めており、彼らなりの表現方法で・・・意外と好評だったのかもしれない?!

九五式機銃射撃装置などに対する、実にあっさりとした態度とは雲泥の差なのである。

いずれにせよ「電探じゃない」の一言で、何もかもが断ち切られているように感じるのは、管理人だけであろうか。



Mark37 Gun Control System

HOME


ALL COPYRIGHTS RESERVED by 対空一考

inserted by FC2 system