Mark37 Gun Control System (Ford Mark1 Computer)

完成したMark33に不満を抱いた米海軍は、昭和11年頃より新たな指揮装置の開発に着手。
将来の電波測距儀搭載を前提とした平面天井を持つハウス筐体に、方位盤と12ftステレオ測距儀を一体配置したモダンな外装とした。

測距儀はおそらく Bausch+Lomb社製 Mark42 range finder。
ツァイス式由来の遊標立体視式測距儀と思われる。

Ford Instrument 社製の新型射撃盤 Mark1 computer は艦内に収容された。
これら構成は奇しくも、九四式とよく似たものとなった。

Mark37指揮装置群は機能性に富んでおり、柔軟な運用を可能としている。
これはGE社による改良型セルシン(Synchros) の開発が大きく作用しているようだ。
各砲座のSynchros受信機には新開発の増幅発電機と優秀な電動油圧システムが接続され、指揮装置からの全砲遠隔操縦をも可能とし た。

加えて状況に応じ、従動させる砲の組み合わせを迅速に行えるようにした。

…例えば、米新型戦艦に真後ろから降下進入すると、後部高射装置一基の指揮による高角砲全門からの射撃を受ける可能性がある。

照準眼鏡と測距儀との連接は言うに及ばず、状況によっては照準眼鏡から直接的に指揮装置を追従させることも可能だ。
ただしこの場合は、解析精度が低下する傾向になるようだ。

また自機以外の自艦他艦のMk.37に相対位置情報を送信することで、一種の協同・合同戦闘も可能としている。
夜間において、艦上のある一基が電探追尾、別の一基が照準追尾を行って対空射撃をした例も報告されている。

射撃盤 Ford Mark1 Computerは他と同様に電動機械式計算機。Ford Instrument 社、伝説の逸品だ。
本来ならば Mark11 Range Keeper とする見込みだったが、その超絶高性能っぷりを称え Mark1 Computer と命名されたのだとか。

当初、高度一定にて開発されたが、早いうちに垂直成分を追加する改訂改修がなされた。
的速の計算機構や手動入力が、水平速度と垂直速度の二本立てとなっているのは、この名残であろうか。

 対する九四式射撃盤は元より三次元成分を含んでいる距離速度±500kt の一系統である

なにあれ、その解析能力はタイヘンに好評で、あっという間だ、数秒だ、当たる!との声が多い。

最初の解析結果をオペレーターが確認後、さらに感度調整しつつ修正解析すると誤差が一定程度減少するという。
この修正解析は距離次第で2秒(近)ないし4秒程度(遠)。だがそれを数回繰り返せば、いとも簡単に10秒程度の時間となる。

解析結果に指揮官が納得すれば、発射開始である。
一般論的には、捕捉から発砲まで最大30秒程度となるようだ。
つまり九四式とビックリするほどには変わらない、という程度だろうか?

 え? オマエはアホか? 九四式なんかと比べるな? Mk.37様に謝れ?


方位盤の天井に追加搭載される射撃用電波測距儀 FD(Mark4)レーダー は、波長40cm(750MHz)のデシ波レーダー。
概略同仕様の対水上用FC(Mark3)レーダーはパラボリックアンテナ2枚を左右に並べたが、このFDはアンテナ2枚を上下に重ねたデザ インだ。

測距電探は概ね以下のように使用されるようだ。
照準眼鏡に合わせ指揮装置を目標方位に指向する。
指揮官眼鏡に連接されたアンテナ仰角指示器に、アンテナ仰角を合わせる。
Bスコープにゆらゆら映る、虚実一切が混在する反射像の中から、これぞ標的と思い定めたピップを選び出す。
輝度の強弱で選択するのが常道なのだろうが、光量は簡単に飽和するためアテにし難く悩ましい。
ここでアンテナ仰角を微調整し、照準線の中心にカチコチ揺れる目標ピップを捉える。
ただしこのとき選んだピップが、確実にターゲットであるという保証は、実はどこにも無い。オペレーター次第である。

追尾ピップを動かし、目標ピップに合わせたところで、ターゲットオン!
Computerに距離と仰角、方位角が送信開始され、そこから解析が始まるだろう。
あとはこの目標ピップを、照準線で頑張って追いかける、追いかけ続ける。オペレーターの腕の見せ所だ。

この時代の電探は、訳も分からず失探することも多い。
雲や煙でいとも簡単に目標を見失う光学測距儀と、やや似たような世界である。
やれること、やるべきことは実際のところ光学測距儀と比べて見え方が変わるだけで、困るところは似たようなものかもしれない。

またデシ波アナログ電探の宿命か、仰角10度以下の低空域では、およそ役立たずとの評価である。
概略同仕様のFC(対水上用)レーダーが、艦艇相手に何となくイマイチだったというから、仕方のない事かもしれない。
ではノイズに沈まないハズの大空を背景にしている高仰角ならどうだ、と問えば、こちらもナニやら評価が安定しないようだ。

昭和19年もだいぶ詰まった頃にようやく登場するMark12は、波長33cm(900MHz)のデシ波レーダー。
Mark4に比べ高周波、高出力となり、捕捉性能や安定性も向上した模様である。

また測角電探Mark22が、Mark12の四角いアンテナの隣に追加される。通称オレンジピール。
これはMk.12を基準に上下約12度の首振りで高角の精測をおこなう、波長3cm(10GHz)のセンチ波レーダー。
英國ティザード使節団より齎された、レーダー技術のチート情報から研究開発された高らかな成果物のひとつ・・・と言えばどうだろうか?

Mark12+Mark22電波測距儀では、ターゲットオン後の「距離追尾」を自動とすることが可能になった。
可能にはなったが、実際にはどの程度アテにできたのだろうか?
取説では「レーダーのみでの盲従射撃は精度がイマイチだと思うよ云々」と謳っている。
こうなると、射撃レーダーだ!などと過度な期待はしない方がよいかもしれない。
ともあれ、この期待の新型レーダーセットが前線部隊に本格的に普及するのは、昭和20年もだいぶ進んだ頃になったようだ。

さて。

Mark37指揮装置の生産数は、九四式高射装置のおよそ10倍。実に841基にも及んだ。
10倍である。
戦果が大きくなるのも道理というものだろう。

昭和17年10月の南太平洋海戦においては、Mark37がMark28、33を超えて高角砲指揮装置の過半数を占めたようだ。
これを境に、Mark37は太平洋戦線を席巻することになる。

Mark37の評価は語り尽されており、いまさら当サイトなんぞで語るまでもない。
"Excellent"のひとことで十分だ。

最後に管理人としては、

Mark37を『対空対艦戦闘を戦うための仕組み

九四式高射装置を『飛行機(と艦艇)を射撃するための照準装置

と、感じた次第である。




横から目線の防空戦

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