くるりと巻いた空母部隊

空母決戦が続いた昭和17年期。
米海軍は空母の周りを、10隻程度の巡洋艦、駆逐艦等で”V字形に厳重に取り囲む”隊形で、日本海軍の猛攻に対抗した。

対空火網を構成するのは、5インチ高角砲と、主に28mm機銃、20mm機銃である。

米艦隊の恐るべきは陣形を構成する全艦が、基本的に高射装置と高角砲を装備している点にある。
高射装置は概略、戦艦に4基、空母、巡洋艦に各2基。駆逐艦に各1基搭載されている。

また艦隊防空指揮のような仕組みが順次整備改良され、およそ統一的に火力運用することを指向していた。
この辺も、日本海軍と根本的に異なるところだろう。

米空母42年対空戦闘 一重輪形陣

中心に空母、半径1,600mに外周艦(8隻)のイメージ図である。
外周艦は概ね巡洋艦2、駆逐艦6というところか。

先にも述べたが米海軍の輪形陣は、基本的に全艦が高射装置と高角砲を装備している。
本図の場合、合計で高射装置12基(そして1基あたり、およそ4~6門程度の高角砲)を装備していることになる。

紫色破線・ 九七式艦攻(雷装)が緩降下しつつ射点を目指し、超低空より速度200ノット超、距離800m程度で魚雷投下する。
高角砲の有効圏内突入より魚雷投下までの想定所要時間約60秒程度。
この時期ならば、戦力を保ったままの突撃が何度も行われ、挟撃や雷爆同時攻撃など戦術を実行できる状況もあった。

しかしなんとも、雷撃機の消耗の高さが窺える図である。
輪形陣の外側においては、外周艦の多くから滅多撃ちにされるであろう。
高角砲の威力を射程距離のほぼ全幅にわたって発揮できるため、射線の干渉がなければ、中心の空母からも容赦なく撃たれる見立てだ。

中空域からの緩降下によって速度を稼ぐのも一つであろう。
あるいは超低空、海面を舐めるように飛んで火線の下を潜るか。
直接的な被弾率は下がるだろうが、所要時間が増すことで、プラスマイナスゼロとなるか。

さらに。
紫色実線・ 上空を往く九九式艦爆(爆装)は高度6,000m、速力200ノットで進入し、急降下突入を行う。
有効射高付近から投弾までは、およそ30秒間ほどの想定だ。
撃墜限界高度を上回って進入できれば、(高角砲に)撃たれる範囲は大幅に減少させることが可能だろう。
しかし高度3,500mあたりから投弾までの約30秒間は、ほぼ全艦から滅多打ちにされることになる。

ただし艦隊側では、目標機と射撃艦の位置関係も問題となるだろう。
下手に近いと計算機が間に合わず撃ち難いとか、少し遠いと弾着が間に合わず実質撃てないだとか、何かと面倒があるのかもしれない。
各艦の位置に依るにしても、高角砲を2~5射できるかどうか、というところだろうか。

この急降下爆撃について概略的に計算すると・・・

仮に、中心に位置する空母を100%の火力発揮とし、外周艦が平均80%の火力発揮できるものとする。
5インチ高角砲の項で求めた高角砲1群の基本的撃墜確率が0.1未満だ。
※ここでは「0.1未満」をまるで一つの単位のごとくに扱う。

空母1隻の片舷火力で0.1未満。さらに外周艦の片舷火力もやっぱり0.1未満。

全く単純に合計すると、0.1未満×9隻=0.9未満(超楽観的)

ヘンな理屈、雑な計算で大変申し訳ない。
しかし…高角砲火力だけの勘定なのに、すでにこの数字である。
昭和17年期における米空母機動部隊の対空戦闘力の、恐るべき一端に触れたように思えてきたのである。



マリアナ沖の戦艦部隊

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