戦艦大和の最期


連合艦隊最期の輪形陣。
大和以下、海上特攻部隊の死闘である。
坊ノ岬沖海戦 対空戦闘
      対降下爆撃
大和以下10隻による半径1,500mの輪形陣。その対空戦闘の理想形が本図となる。
実際には(特に第1波攻撃)雲底高度1,000m~600mの密雲によって、蓋をされたように全く視界が利かず、 両軍ともに戦闘に制約を受けることとなった。

空襲部隊はレーダー装備のSB2Cにより上空に誘導され、その後はアタリをつけながら、あるいは雲底を縫いながらの接近を図った。
教科書的な急降下爆撃をあきらめ、高度数百メートルからの急襲的な緩降下銃爆撃。
あるいは雲底に張りつく様に低空を遊撃し、突如反転投弾するような奇襲的攻撃も頻発したようだ。

艦隊からすれば視界内、射程内に敵を捕らえるイコール投弾・発射の瞬間に近く、ほぼ殴り合いの接近戦である。
単装機銃の概略指向ですら後れを取るような状況では、高角砲ではまともに射撃機会を得ることもかなわず、酷い苦戦となったであろう。

意味が解らない方は、上図の高度1,000mから上を、スクロールするか何かで覆うなどして、見えなくしていただきたい。
如何に限られた視界の中での戦闘を強いられたのかを、じっくりと想像していただきたい。

ともあれ概算である。

本図において有効な高角砲は、大和の4群12基と、冬月・涼月の1群4基ずつ。
矢矧の長8cm高角砲は議論が残るが、「高射装置がレイテ沖海戦で損傷したまま説」を採用し、計算外とする。

大和が片舷2群6基で撃墜確率0.1余り
冬月・涼月が有効80%として、それぞれ0.25
合計0.6程度となり、意外に強力だ。

実際の戦闘においては第1波攻撃隊の半数近くが、とにかく何らかの被弾をしていたという。
極限まで増設された25mm機銃などの対空火器の制圧は、攻撃側にとって重要な課題となった。
米軍は攻撃の前路に戦闘機を投入し、機銃掃射を徹底するなどの対策を行っている。

戦闘機隊は制空戦闘しなくてもいいからね・・・

さて。
この時期になると、そもそも対空砲火を受け付けないで済まそうというような攻撃法が発達してきた。

坊ノ岬沖海戦 対空戦闘 ロケット弾攻撃 高速雷撃
緩降下するグラマン艦攻TBF/Mは、一見すると駆逐艦を狙った緩降下爆撃のようにも見えるが、実は大和を狙っている。
これは、改良を重ねたMk.13魚雷による高々度・高速度雷撃である。
本図は教科書的な高速度雷撃を表現した。

高度2,100m付近より20~40度の緩降下で突入。目標距離1,400~1,500m、高度240m、速力260ktで魚雷投下。
投下された魚雷は7~8秒間、水平距離910mほど飛翔し着水、水中距離約400mで目標にむかう。
およそ80%程度が正常航走するという。
さらに投下速度を300ktとすると、約8秒間で水平距離1,000mほど飛翔するようだ。

これを大和から見ると、機銃射程外であると同時に、遠目に何を意図しているのか分かりにくい機動となるだろう。
「降爆か雷撃かも判別しがたく、投下の瞬間を見極めるほかなし」旨の記録が残されている。
ただしこれは外周艦からすると「大和は雷撃機を侮り、射撃もせずに放置した」ようにも見えたらしい。
いずれにせよ機銃射程外からの攻撃であり、対処困難な戦法と考える。

またさらに、速力300ktで投下高度1,500mとすれば、飛翔時間18~20秒、水平距離2,000mにも達する超高々度高速度雷撃となる。
魚雷の仕様外ではあると思うのだが、これが結構な確率で正常航走するとあっては、まさに脅威というほかないだろう。
なにより実戦においてはこのような立体高速度攻撃が、十数機によるU字型の包囲陣形で実施される。
まったく処置無しである。

ロケット弾攻撃もまた面倒な攻撃だ。
ここでは5in砲弾を弾頭にしたHVARをモデルとした。

ダグラス艦爆による教科書的なHAVR攻撃は、輪形陣外周の駆逐艦を狙っている。
対空砲火除けのスラローム飛行から、奇襲的な急降下、そして機銃射程外からの一斉発射をイメージした。
撃たれる側とすれば対応策がほとんどなく、また駆逐艦の斉射を食らうような威力にもなり、まったく処置に困る攻撃であっただろう。

F4Uによる高々度からの降下攻撃は、高角砲対策として上空から高速突入するイメージである。
400ktに迫る高速で、あるいはスラローム気味に突入するなどにより、艦隊側からは極めて面倒な目標となるだろう。

ところで、戦艦大和に5in砲弾を当ててどうすんの?とおっしゃる方が居られる。
面倒がらずに大和の断面図を御覧になっていただきたい。
「あの分厚い装甲板は貫通できないだろうね」というだけで、壊れるところなど幾らでもある。

絶対に忘れてならないのは、最も貴重で、最も脆弱な人間が、鉄鉢ひとつの生身を晒して戦っているということだ。



駆逐艦ラフェイ(DD-724)の戦い

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