駆逐艦ラフェイ(DD-724)の戦い

長年に渡ってこのネタを弄り続けていると、途中で新たな資料に出会うことがしばしばである。
それゆえ筆が曲がることもまた、しばしばである。

米軍から見た 沖縄特攻作戦
    カミカゼvs.米戦闘機、レーダー・ピケット艦
     ロビン・リエリー[著] 小田部哲哉 [訳]

この本との出会いは、さまざまな発見や疑問解決のヒントを管理人にもたらしてくれた。
ここでは、この「米軍から見た 沖縄特攻作戦」を底本として話を進めようと思う。

本項では、横から目線コーナー初の「2番機」が登場する。
ここまであえて眼を反らし続けてきた、複数目標との戦いとはいかなるものだろうか?

昭和20年4月16日 0830時過ぎ 沖縄 RPS #1

レーダーで17,000ヤードに探知された大編隊より分離した九九艦爆4機が、ラフェイへ向かってきた。

九九式艦爆は2機ずつに別れ、ラフェイへの挟撃を図る。
ラフェイは取舵をとって右舷でこの目標を捉え、前方2基の砲塔(おそらくFCSコントロール)を 左方の2機(#1 #2)へ。
後方1基の砲塔(おそらくローカルコントロール)を、右方の2機(#3 #4)へ指向し、戦闘を開始した。

下図は、そのうちの前部砲塔(51・52番砲) による、九九艦爆 #1 #2との戦いを元とした。
なお九九艦爆の高度は全く推定である。

DDラフェイ対空戦闘 前部砲塔の戦い

このときのラフェイの砲指揮装置は艦橋上に1基。Mark37と射撃レーダーMark12+Mark22ならば理想的だ。
本図においては、目標が超低空(概ね仰角10度以下)にあり、もし射撃レーダーがMark4だった場合はおよそ役に立たないだろう。
また新型レーダーセットであっても、照準を合わせているヒマがあるとは限らないのが、戦場の実態だ。
なにあれ事は一刻を争う。狙える限り、撃てる限りの遠大距離から射撃開始となるだろう。

(1)    ゆるいカーブを描きつつラフェイ艦首方向より突入する九九艦爆の2機編隊(#1 #2)。想定最大速度250kt。

(2)    #1に対する有効弾の最終的な発射位置推定。射撃時点の直距離12,000ヤード(約11,000m)程度。
        射撃開始からこの位置に至るまで、最短だと約1分間程度か?

(3)    直距離9,000ヤード(約8,200m)にて#1の撃墜を確信。#2へ目標転換(所要5秒間と仮定)。

(4)    #2に対し射撃開始。

(5)    #2への弾着が始まる。

(6)    直距離3,000ヤード(約2,700m)にて#2の撃墜を確信。(最終的な砲弾飛翔時間3.5~4.5秒程度)

いかがであろうか。
5インチ連装砲塔3基搭載艦を以てしても、やはり複数機への対応は簡単ではないように感じるのである。

#1の撃墜では最終有効弾となるべき砲弾が、(2)射撃距離12,000ヤード付近までに発射されていなければならないと考える。
これが20~21秒間ほどの飛翔後、(3)直距離9,000ヤード付近で最終的な有効弾となり#1を撃墜する。
実際には撃墜と確信するまでとにかく撃ち続けるだろうから、目標が(2)から(3)に至るまでの間、3~6発/門は撃ち続けているだろう。
事態はひどく切迫しているのに、しかし、気長な話でもある。

そして。
ずいぶん前に、訳のわからない理由から決めつけた撃墜限界距離8500m付近での撃墜記録の発見に、管理人は驚いている。
またそれは見方を変えるなら、この艦爆は(どのような理由であれ)比較的平易なベクトルで突入してきたのだろうかとも思える。

つづいて#2に照準を変更する。
ほぼ同じベクトルで飛行しているであろうから、照準修正や解析は短時間で済むものと思われる。
解析すれば直ちに射撃再開。本図では所要5秒間と想定している。
ただしその5秒間で、#2は(4)までの600m以上を突っ込んでくる。

※ #1との間隔は考慮していない。実際には数秒間程度の間隔距離があると思われる。

約11秒余りのち(5)付近より、#2への弾着が始まるだろう。

直距離3,000ヤード(6)にて、#2の撃墜を確信する。
撃ち始めの(4)から、撃墜を確信する(6)まで、距離約5,000m。飛行所要時間は約40秒間くらいか。
その間、砲は全力射撃を続けるだろうから、1門あたり楽観的に10~12発、4門で最大50発程度の発砲にもなるか。
最終的な命中距離3,000ヤードともなれば砲弾飛翔時は3.5~4秒程度となり、結構な接近戦であるように思える。

とはいえラフェイはいまだ無傷。
激闘は続く・・・いや始まったばかりだ。


続いてほぼ同時に展開されていた#3 #4との戦闘である。

DDラフェイ対空戦闘 後部砲塔の戦い

ラフェイの右舷後方より突入を図る九九艦爆 #3 #4に対し、後部砲塔(53番砲)が射撃。
おそらく砲側照準だが、この戦闘では近接信管を用いたようだ。

(1)    ラフェイ艦尾方向より突入する九九艦爆の2機編隊(#3 #4)。想定速度250kt。

(2)    距離3,000ヤード(約2,700m)にて#3が海面に脚を引っ掛け墜落。

(3)    #4が機銃弾幕をくぐり、ラフェイ後方を左舷方向に航過し、僚艦LCS(L)-51の弾幕に突入。
       その後、LCS(L)-51の近傍、ラフェイ左後方5,000ヤード(約4500m)に墜落。この戦果はLCS(L)-51にカウントされた。

不明点が多いことは、ご容赦をいただきたい。
管理人としては、
(1)    飛行高度が全く不明。さらに射撃開始距離も全く不明。
(2)    #3墜落原因が、被弾損傷等により高度が落ちたのか、それとも被弾回避のために低空に下り「過ぎた」のか不明。
(3)    #4がどこまでラフェイに接近したのか不明。40mmは撃つだけなら4,000ヤード(約3,600m)くらいを目指して撃つ?
・・・あたりが明瞭な不明点である。

高角砲のローカルコントロール(あるいはMark51mod.3)では、近接信管を用いても遠大距離での命中はままならず、接近を許してし まうことが窺える。
いっぽうで、当サイトにおける対空有効射程内ならば弾道高さはそれなりに低いハズ。
正対目標に対する近接信管付砲弾の命中期待は大きいだろう。

そこで・・・
ローカルコントロール+近接信管の5インチ砲を機銃として見立て、機銃の部にて行った「必中射程」の概念を強引に適用してみる。
すると、近接信管の有効半径に相当する弾道高さ20mならば約2,600m。上下に20mずつとすれば3,100mあたりまでが「必中射程」 と勘定 できた。
こうなると#3を3,000ヤード(約2,700m)で撃墜しているのも、なにやら暗示的ではある。(牽強付会とも?)

実際は距離を出せば出すほどに、早爆やら不発やらのエラーを多発するのが当時の近接信管。
発展途上製品にありがちな技術的問題である。
それでもやはり、近接信管が無いより有るほうがマシだ。
真っ向から突っ込んでくる敵機に対し、わずかでも確率を上げて射撃できる。
ただし、いかんせん時間距離が近すぎる。敵が1機ならともかく、複数目標には不安が残る。
現に#4には突破を許している。

#1 #2に対する「比較的上手くいった」戦いに比べると、この#3 #4に対しては「あまり上手く行かなかった戦い」のように感じるのである。

とはいえラフェイはいまだ無傷。
激闘は続く・・・




HOME



ALL COPYRIGHTS RESERVED by 対空一考
inserted by FC2 system