九八式八糎高角砲

存速と飛翔時間

対空戦闘


スリム&スマート。
軽くて小さい、そして少々お値段の張る高角砲である。

阿賀野型巡洋艦の両舷に1基ずつ…以外のイメージがほとんどない、いわゆる「長8cm高角砲」。
欠陥砲として語られる事の多い、ちょっと不憫な長8cm高角砲を眺めてみよう。

存速と飛翔時間

要目
砲弾直径 76.2mm
砲弾重量 5.9㎏
砲口初速 920m/s
発射速度 25発/min

長8cm高角砲 存速と飛翔時間

青色の実線「必中を期する射程」が約3,500m程度。
緑色の実線「対空有効射程」が約4,500m程度。
赤色の破線「音速限界」が約5,600m程度。

ここで12.7cm高角砲との比較を試みる。

長8cm高角砲 存速と飛翔時間 12.7cm高角砲 存速と飛翔時間

当サイトの主張する存速原理主義的な比較では12.7cm高角砲に比べ、対空有効射程だけなら約1,000mほどは優れるように見える。

現実的には長8cmはその軽量砲弾ゆえ、特に対空有効射程を超える射程においては、12.7cmよりも弾道が悪化しやすいだろう。
また危害半径が約14mと小さく(12.7cmは約20m)、弾着の時空間的精度の要求が格段に厳しくなるだろう。

遠距離になればなるほど、12.7cm砲に比較して著しく不利になってゆくのでは、と考えるのだ。

  砲弾重量は約1/4。しかしサイズ(断面積)は約1/3程度。
  軽い割に案外小さくないことから、外乱の影響をより強く受けるのでは、という予想だ。
  そうした点が「砲身の振動云々」等々、歯切れの悪い議論を招いてい る面もあるように感じるのである

おまけに(阿賀野型での)長8cmは連装砲架が両舷に1基ずつ。
2門が精一杯の射撃では、ひいきめに見ても当たるイメージが湧きづらいのである。



対空戦闘のイメージ

長8cm高角砲 対空戦闘 SB2C緩降下から急降下

的(テキ)は、カーチス式2形偵察爆撃機。

高度約4,800m、速力240ノットにて目標上空に進入し、撃墜限界付近より30度の緩降下で突入。平均速力340ノット。
高度2,000m付近より降下角を60度、終速270ノットの急降下とし、高度400mまでに爆弾投下と想定する。

これを、九四式高射装置の統制にて一連の射撃を行い撃墜を試みる。

なお撃墜限界については、特に材料もないことから、これまで同様に8,000mとする。
もちろんこれまで通り、九四式高射装置がこの高度な機動に追従可能、という都合のいいローカルルールも厳守される。

発射速度は仮に毎分20発。
緩降下開始付近より(高角砲担当)3,000mまでの緩降下航程は単純計算で約28秒間で、約9斉射(超楽観的希望)となる。
連装砲架1基2門にて発射弾数約18発程度。(揚弾能力の制限については、ここでは無視する)

的が対空有効射程内にあるのは後半の約10秒間。約3斉射分となるか。
なお弾着までの砲弾飛翔時間は近い方で約4秒余、遠い方では約15秒余となる。

以上の想定から得られる撃墜確率は0.1未満。連装1基ではやはり物足りない結果となる。
余談だが、計画倒れに終わった改阿賀野型であれば片舷連装2基4門を予定し、確率0.2に少々足らずとなる。

ここで12.7cm高角砲と比べてみよう。

長8cmと12cm7比較 長8cmと12cm7比較

いかがであろうか。
表の見てくれだけならば、12.7cm高角砲を一歩リードする、高性能砲であるようにも見える。

と、いうことは?

長8cmと5in比較 長8cm高角砲と5in高角砲比較

5インチ砲と比べると、こうなる。
表の見た目だけなら、中々のものではないか! (本来は比較していいものではないと思う)

もっとも、数多の艦艇に搭載され戦場を席巻した5インチ砲と比べ、日本海軍内ですら影の薄い長8cm高角砲。
少々の性能云々を叫んでみたところで、残念ながら、影響力絶無なのである。



3インチ速射砲

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