5インチ高角砲

存速と飛翔時間

対空戦闘概念 42年頃

対空戦闘概念 44年頃


5インチ38口径 マーク12高角砲
それは必ず戦場にあった。
それは艦隊に遍く存在し、輪形陣上空を砲火で覆い尽くした。
傑作砲である。

戦争後期には近接信管付砲弾まで投げつけてきた、この恐るべき高角砲を、まずは砲弾存速という観点から眺める。

砲弾存速と飛翔時間

要目
砲弾直径    127mm
砲弾重量    25kg
砲口初速    762m/s
発射速度    12~15発/min / 15~20発/min (形式による)

5インチ高角砲 存速
      飛翔時間

※退屈な注記
管理人は5インチ高角砲についての知識がとてもとても浅く、突合せ検証をしていない。
しかし12.7cm高角砲、また長10cm高角砲(後述)での計算結果においては、それなりの整合性を得ている。
よって当サイトでは、上記と同様の計算によって得られた本図を「それなりに正しい資料」として扱う。


「対空有効射程」が概ね4,500m前後。前項12.7cm高角砲に対し、10%以上の優位となるようだ。

「必中を期する射程」が約3,000~3,500mとなったが、これは高角砲の運用としては余りにも至近距離の感があり、少々余計な表現であっ たかもしれない。

ともあれ12.7cm高角砲と比較して、より重い砲弾をより高い初速で発射する、この5インチ高角砲の優位を期待させる図となったように思う。




対空戦闘におけるイメージ ~ 5in砲とMark37砲指揮装置と ~


12.7cm高角砲の部と同様に、敵機の動きを想定し、距離と時間の関係を絡めながら、もう少し現実的なイメージを組み立てる。

昭和17年期の激闘

5in砲 対空戦闘 九九艦爆
      水平進入より急降下

緑色の実線 「対空有効射程」 概ね4,500m
緑色の破線 「有効射高」 概ね3,800m
赤色の破線 「音速限界」 概ね6,000m前後
青色の破線 「撃墜限界」 本図では距離8,500m、高度5,800mと仮定した。

先と同じく、昭和17年期に四度も戦われた、日米空母決戦をイメージした。

的(テキ)は、九九式艦上爆撃機一一型。
高度6,000m、速力200ノットにて目標上空に進入し、降下角60度で突入。
終速270ノット、高度400mまでに爆弾投下する想定。
これを先と同じく、急降下開始以前に撃墜するべく、試算を開始する。

なお撃墜限界として、何の根拠も無く8,500mを仮定した。
無理に理由とするなら、Mk.37は優秀だ、射撃電探だ、コンピューターだ云々、皆が皆で大絶賛するので九四式より大きくした、となる。
また撃墜限界高度については、音速限界線の具合および、「瑞雲飛翔」(梶山瑞雲・著)により、5,800mと仮定した。

5in高角砲は様々形式があるが、仮に空母ヨークタウン級として、開放式単装砲架で毎分12発と仮定。
撃墜限界8,500mより急降下開始点までは、単純計算で所要約25秒間となり、最大5射(超楽観的)。
すると、片舷4基4門で合計20発。
能天気な数字を並べたにもかかわらず、なんだか心細い結果となった。

的は対空有効射程の遥か彼方。おまけに撃墜限界高度よりも上の高度6,000m。
その一方で、とにかく等速直線水平飛行しているのだから、計算上は安定するかもしれない。

12.7cmの部と同様に、連続150発を超楽観的に撃墜確率1と仮定するならば、ここでは確率0.1少々となってしまう。
先と同様に、決して高い数字とは思えない。

全航程が対空有効射程がということで乱暴にもさらに半分。有効高度超過でさらに半分として(も、しなくても)要するに0.1未満だ。
前項の12.7cm高角砲といい勝負である。

弾着までの砲弾飛翔時間は近い方で約13秒程度だが、遠い方では約20秒となる。

  米海軍の対空射撃を、日本海軍と同列に評価するのは全く以てどうかしているとは思 うのだが、これは管理人の無知故である。

これが新型高速戦艦ならば、片舷全力で連装5基10門。
速射の効く連装砲塔で毎分17発とするならば、合計約70発(超楽観的)で、撃墜確率0.4以上。
上と同様に半分の半分としても撃墜確率0.1程度。
少々心強い。

だがしかし、これまで散々刷り込まれてきた「鉄壁の防空網」的なイメージからすると、なにやら弱々しい感じでもある。

ともあれ実際問題として。

「上手くいけば命中するかもしれない?」様な距離において、しかし敵機を確実に撃墜する必要があるところに、最大の悩みがあるのかもしれない。

昭和19年期の激闘

5in砲 対空戦闘 彗星艦爆
      緩降下より急降下

戦争後期になると、さらなる高性能機の投入、戦術の洗練発達により、ますます対空火器の戦いは困難となってゆく。
それは無敵にも思える米海軍にとっても同じことだ。

的(テキ)は、艦上爆撃機 彗星。

高度6,500m、速力300ノットにて目標上空に進入し、撃墜限界付近より30度の緩降下で突入。
緩い弧を描きながら降下角を深め60度の急降下で終速350ノット。高度400mまでに爆弾投下の想定とする。

撃墜限界(距離8,500m、高度5,800m)から、至近距離3,600mまでは、単純計算で所要約25秒間。

空母エセックス級、連装砲塔4基8門、毎分17発とすれば、合計約56発となる(超楽観的希望)。

的は、初期は撃墜限界の彼方だが、最後の1~2射は対空有効射程内の弾着となりそうだ。
ただしすでに急降下過程に移行しており、有効な射撃にはならないかも知れない。

この様な連続的にベクトル変化する高速降下目標に、Mk.37砲指揮システムが実際的に、またどの程度、追従できるものかは正直ワカラナイ。
日本側からは無敵としか思えぬ米海軍だが、しかし「日本軍の高速目標」には、だいぶ手を焼いている。

栄光の伝説につつまれたFord Mark1 Computerではあるが、九四式射撃盤と概略同時代における、概略同技術で構成された電動機械式計算機だ。
程度問題はあるにしても、しかし腰を抜かすほどの隔絶であるとも思えない。
当サイトにおいては「目標追尾は理論的には可能だと思うから可能なのだ」と極めて官僚的に仮定し話を進める。

  高度基準の大英海軍HACS等に対し、Ford Mark1 Computerや九四式射撃盤では、上昇降下目標の追跡計算が比較的容易だ。
  なおMark1 Computerは、目標の降下角度が70度を超えると計算が停止してしまう。実用上の問題はあまりないとは思うが。

なお、目標真正面から低伸弾道で撃ち込む状況になると、つまりは距離が詰まるほどに、近接信管が相応の威力を発揮するのかもしれない。
半径20mの仮想砲弾として考えれば、かなりの精度誤差を飲み込むことが可能だ。

弾着までの砲弾飛翔時間は近い方で約7秒足らず。遠い方では約20秒となる。
緩くでもコース変化させながら突入されると、照準追尾も命中も極めて困難となるであろう。

撃たれる側とて、撃たれまいと懸命なのだ。
自機の後を追い上げてくる連続した炸裂煙を見て、急いでコースを変えたという元搭乗員の声もある。

前項同様に連続150発を1セットとして全く理想的に撃墜確率1とするならば、ここでは確率0.4を割り込む。
ほぼ全航程が対空有効射程外ということで半分に修正すると、確率は0.2足らずと、微妙に大きめの数値となった。

ともあれ。

有効射程外の遠大距離から、極めて高速に突入してくる敵機を、極めて短時間の内に確実に撃墜する必要があるところに、最大の悩みがあるのかもしれ ない。



長10cm高角砲

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