長10cm高角砲

存速と飛翔時間

対空戦闘概念 昭和17年頃

対空戦闘概念 昭和19年頃


九八式十糎高角砲。
昭和13年度に制式化された、秋月型駆逐艦の主砲として有名な長砲身高角砲である。
従来の12.7cm高角砲と比較しても、また米5in高角砲と比較しても、より高い性能を持つ優秀砲であったとされる。

通称マル四・マル五計画艦に多く搭載される見込であったが、対米開戦の影響をまともに受け(比較的優先されながらも)少々残念な結果に終わった。
多くの伝説に彩られている感のある長10cm高角砲を、砲弾存速の観点から眺める。

砲弾存速と飛翔時間

要目
砲弾直径    100mm
砲弾重量    13kg
砲口初速    1,000m/s
発射速度    19発/min

長10cm高角砲
      存速と飛翔時間

既述の12.7cm高角砲と同様、ファーザーのHP様を参考に、本砲の実戦評価を求めた。
また「高角砲と防空艦」によれば、
以上を突き合わせ、管理人は本図にそれなりの整合性があるものと判断し、それなりに正しい資料として扱う。

本図によれば、緑色の実線「対空有効射程」は約7,000m前後。
また青色の実線「必中を期する射程」も約5,500m程度となり、射撃効果を期待できる範囲が格段に広いことが窺える。
従来型高角砲に対して、一段上の性能を期待させる図になったように思う。



対空戦闘におけるイメージ ~ 長10cm高角砲と九四式高射装置と ~


これまでと同様に、敵機の動きを想定し、距離と時間の関係を絡めながら、もう少し現実的なイメージを組み立てる。

昭和17年期の妄想

長10cm高角砲 対空戦闘
      SBD水平進入より急降下

舞台は激戦続く昭和17年期の南方洋上。
直衛艦構想の当初イメージそのままに、空母「翔鶴」「瑞鶴」に侍る秋月型4隻。幻の航空決戦風景だ。
母艦部隊に襲来するダグラス艦爆を、片っ端から10機、20機、バッタバタと・・・

いやま現実的には、せめてあと合計4機くらい、史実より余計に撃墜できたらいいよね?という気持ちで、本図を眺めて欲しい。

的(テキ)は、ダグラス式偵察爆撃機。
一機がまっすぐ「秋月」にむかってきた。
高度4,800m、速力210ノットにて「秋月」上空に進入し、降下角70度にて突入。
終速250ノット、高度400mまでに爆弾投下の想定である。

長10cm高角砲の発射速度は、要目では毎分19発だが、ここでは諸事情を考慮し、仮に毎分13発とする。

 長10cm高角砲は、12.7cm高角砲と同機構の半自動砲だが、弾薬筒が少々軽量等を含め、こ の様に判断した

撃墜限界8,000mより降下開始点までは、単純計算で所要約44秒間となり、約9斉射。
秋月型自慢の主砲群4基8門を全力指向すれば、合計約72発。
ただし、急降下直前の減速操作により、最後の1~2斉射は空振りになるかもしれない。

的は最初の約9秒間こそ対空有効射程の外側にあるが、残りの約35秒間は対空有効射程内をただまっすぐに飛行する。
計算上はとても安定するかもしれない。
弾着までの砲弾飛翔時間は、近い方で約8秒、遠いほうでも約13秒余。

これまで同様に、連続150発を撃墜確率1とみなすならば、単純計算で確率0.5寸前と、従来よりもずいぶん強力だ。
しかも約72発の内の大部分が対空有効射程内への弾着だ。
有効射程外となる分を半分に修正しても、確率0.4超と、ずいぶん期待を持てる数値となった。
さすがは航空決戦新時代の艦隊防空を担う新鋭高角砲だ。

 その計算方法なら、発射速度次第だろ?というツッコミは、まったく正しい。

この砲の弱点は、「配備が進まなかった」に尽きるかなというのが、管理人の私見である。
制式後ほどなくして対米開戦。
本砲を載せるべく数多計画された艦はしかし、諸事情で次々計画中止や建造取止。
戦場に数が揃わないのだから、是非もないのである。

 とはいえ砲自体は結構な数を生産しているようだ。
 管理人の机上計算では、188門。
 サムライ乾氏によれば、192門の配備を確認。


おまけに時間と資源と予算とを喰らう半自動砲に替わって、開戦あるいは激戦化に伴って生じた膨大な需要に挑んだ高角砲は、なんと大正生まれの逸 品。

技術、運用などの熟成に要する成績収集、解析、改善・・・ その手間、時間すらも満足されないままに、容赦なく戦争に飲み込まれてしまったのではないだろうか?



昭和19年期の死闘

長10cm高角砲 対空戦闘
      SB2C緩降下より急降下

戦争後期になると、さらなる高性能機の投入、戦術の洗練発達により、ますます対空火器の戦いは困難となってゆく。
長10cm砲にとっては、最初から激戦であったか?

的(テキ)は、カーチス式2形偵察爆撃機。
高度4,800m、速力240ノットにて目標上空に進入し、撃墜限界付近より30度の緩降下で突入開始。平均340ノット。
高度2,000m付近より降下角60度、終速270ノットの急降下とし、高度400mまでに爆弾投下と想定する。

これを一連の射撃によって、急降下以前に撃墜を果たすべく、試算を開始する。

発射速度は前項と同じく楽観的な、毎分13発とする。
撃墜限界付近8,000mより高角砲担当3,000mまでの緩降下航程は、単純計算で所要約28秒間となり、約6斉射となるか。

主砲全力4基8門で合計すると約48発。

的はほぼ全航程が対空有効射程内だ。

ただしこの様な高加減速を伴う高速緩降下目標に、九四式高射装置が実際的に、あるいはどの程度、追従できるのかは、正直ワカラナイ。
当サイトにおいては「射撃盤が距離基準なのだから原理的には可能なのだ」と、極めて無責任に仮定し話を進める。

 そこそこに加速を続ける緩降下目標を、機械式計算機でまともに追尾可能かとなれば、実のところ疑 問である。
 なお「急降下突入目標の追尾」は、 時間リソース的に非現実的あるいは事実上不可であると管理人は認識している。
 
弾着までの砲弾飛翔時間は、近い方で約4秒、遠い方では約13秒余となる。
緩くでもスラロームしながら突入されると、照準追尾も命中も極めて困難となるだろう。

なにせ撃たれる側とて、撃たれまいと懸命なのだ。
高角砲員としても"当るのは敵がまっすぐ飛んでる最初のうちだけ"という感覚があったようだ。

この様な極めて楽観的な想定においても発射弾数、約48発である。

撃墜確率とすれば、ここでは0.3超。
他に比べれば心強いといえるものの、駆逐艦1隻に出来ることには限りがあるようだ。

秋月型は、よくても1隻、2隻が常なのだから。



高角砲まとめ

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